オーストラリアのゴールドコーストという地に高校4年間の留学をきっかけに、僕のサーフィンに対する価値観が180度変わりました。そして、映画『OCEANTREE – The Journey of Essence -』を制作するきっかけとなったタイミングでもありました。
僕がサーフィンと出会ったのは4歳の頃。毎週末、両親に連れられ海で父親がサーフィンをする姿を2つ上の兄と一緒に夢中に見ていた記憶が鮮明にあります。そして、はじめて買ってもらったサーフボードと共に乗った波の記憶は一生忘れられない景色となりました。
小学生から家族で湘南に移住し、サーフィンを競技として向き合うようになりました。その頃からサーフィンを始めてから海にいない日はありませんでした。幼いころから数多くの大会に出場し、周りにいた同年代のサーファー達と切磋琢磨しながら技術を磨いていた記憶がまだ残ります。そんな中、中学校を卒業して高校でオーストラリアに留学をすることになりました。現地では、ミック・ファニングやジョエル・パーキンソンの母校でもある高校に通学することに。サーフィンの特別クラスに選抜され、毎日授業としてサーフィンがある環境で過ごすことができました。日本と同様に競技としてスキルアップを目指すサーファーが周りには多かったと同時に、それなりの技術を持ちながらも『自由』に波に乗る同年代の子達がいたことに衝撃を受けました。クラシックボード、ロングボード、アライア、ボディーサーフィン、自分でシェープしたサーフボードなど様々な形で彼らはサーフィンを楽しんでいた。日本でパフォーマンスボードに乗りながら試合ばかりに集中していた僕には衝撃的な光景でした。この光景を目の当たりにしたとき、サーフィンの本当のあり方について考えはじめました。まず自分に問いかけたのは「なぜ海に入ってこんなに技を練習しているのだろう」。答えは、「大会に勝つため」。ただそれだけでした。僕は本当に大切なことを忘れていることに気がついたのです。競争やビジネスばかりではなく、『楽しむ』ことを忘れていました。今までの僕は、形にとらわれすぎていた気がしました。波に乗るのにはもしかしたらボードなんていらないかもしれない。サーフボードさえ持たないボディーサーフィンだって1つの波乗り。『波に乗る感動や喜び』さえあれば、それは波乗りなのではないか。アライアやボディーサーフィンで波に乗り始めてから改めて感じたことがあります。パフォーマンスボードでは波に乗れて当たり前。そして、波に乗ってから何ができるのかが『挑戦』でした。しかし、アライアやボディーサーフィンは、パドルして波に乗ることから『挑戦』がはじまっている。波に乗れた時の感動は、まさに僕が4歳で始めて波に乗れた時の感動と同じものがあると毎回感じています。
また、パフォーマンスボードに乗りながら良い波だけを追い求めて『自分と波』だけの関係性はとても悲しいと感じていました。海の中を見て、空を見て、陸を見て、海にいる生き物を見て、地球全体を感じて、波に乗り、周りで一緒にサーフィンをしている人たちとその思いを共有する。これがサーフィンの素晴らしさだと僕は体感しました。サーフィンをしに海に入っているのではなく、海に入りにサーフィンをしに行っているのだと。海という偉大なものを身をもって感じていたいからこそ、サーフィンというツールを使って海に入っているだけなんだと。昔の人たちのマインドや、自分自身が初心に戻るという意味で『原点回帰』することで本当に大切なことをまた思い出すことができたのが僕の高校時代だったのかもしれません。
高校を卒業すると大学に入学し、大工である父親の工具を使って自らアライアを削るようになりました。アライアを作るにあたり木を求めて山に行って感じたことがあります。それは、波に乗るための道具を作ろうとしているのに山にいるということ。ぼくにとって山と海はとても遠い存在に感じていましたが、自然は全て繋がっているのだとその時に知りました。山があり、川があり、街があり、また川があり、海に流れていく。太陽の光で海水が雨に変わり山に降り注ぎ生命を育んでいく。それと同時に、人間が作り出す『ゴミ』も地球の水の流れの中に運ばれていることを知った。幼い頃から湘南の海でサーフィンをしていて常に感じていたことがあります。どうしたら海のゴミは消えるのだろうか。どうしたら綺麗な海水でサーフィンができるようになるのか。大学のある授業をきっかけに、海の問題は海だけを見ていても改善されないことを知りました。実は海にある約70%ものゴミが人の住む街から来ていること。『山・川・街・海は全て繋がっている』ということ。この全ての繋がりをアライアで表現しようと思ったのが、ドキュメンタリー映画 『 OCEANTREE – The Journey of Essence – 』の制作を始めたきっかけです。
今の時代、すぐにモノが手に入ってしまい、1つ1つのモノに対する価値が下がっていると感じています。目の前にあるモノ、人、自然など全てが『当たり前』の存在ではありません。改めて感謝の気持ちを持つことが大切だと感じています。この映画では、海が教えてくれた『本当に大切な事(本質)』を波乗りの原点を振り返りながら伝えていきたいという思いがありました。全ての人が全ての存在にリスペクトの気持ちを持てたら、海からゴミがなくなるのではないか。きっと、そこには海の環境だけでなく『皆が幸せ』と感じる世界があるはず。是非、本編をご覧ください。
Surfer : Kenta Ishikawa
Filmer : Takaya Yagami
Production : The Days Water.
Year : 2016
Places : Japan, Australia, California, Indonesia
OCEANTREE公式サイト : https://oceantree.kentaishikawa.com/